設備投資が失敗しないための2つのポイントとは?

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2017年11月22日の日本経済新聞でこのような報道がされました。

2017年11月22日の日本経済新聞

ものづくり補助金、投資回収1%にも未達 財務省調査 

14年度の投資実績は1万2319件だが、商品化できたのは4330件にとどまった。補助金を含めた「投資回収」に至った実績はわずか7件だった。財務省が2012年度からの3年間の状況を経済産業省の協力を得て調査した。

ものづくり補助金は設備費用の3分の2を補助することで、企業が新しい設備でビジネスを開始することを支援する仕組みです。このニュースが出たとき、「補助金の名目でバラマキをしているだけじゃないか!」という批判も生まれました。

補足すると、この補助金には利益を計上して投資が回収できた暁には、補助金を返還する「収益納付」という仕組みがあります。

結構な手間をかけて書類を作って申請して、交付手続きをして監査を受けて・・・と数多の手続きを行う必要があるのです。それが儲かったら返済となると、大量の書類を準備してきた手間が全部無駄になってしまいます。「利益を計上すると損」というインセンティブを経営者に与えかねない制度設計になっている点は、問題になるかもしれません。


とはいえ、企業で設備投資を行う以上は儲からなくてはなりません。

設備投資の問題でありがちな例として

  • 生産設備の新型機が発売されたから買う
  • 新型の工作機械が色々できそうなので買う
  • 目をつけていた自動加工機が安くなってたので買う
  • 現場が欲しいと申請してきた設備を買う

などが起こってしまうのです・・・

 

設備を入れたけれど、事前に思い描いたようには品質が改善せず、納期も縮まらない。

作業者も使い慣れた従来の装置を使いたがって、新型装置の導入担当者がいくら説明してもマニュアルを作っても定着しない。

新型装置の稼働率も上がらず、トラブルが起こると「やっぱり最新型は頑丈さに欠けるよな・・・」などと言われてしまう。

せっかく導入する設備です。あなたの会社の品質・コスト・納期を改善し、社員が更に生き生きと働けるようになって欲しいところですよね。

そこで本コラムでは、設備投資を行う上で経営者が考えておくべきポイントを解説していきます。


まず1つ目は「設備投資の目的を明らかにしておくこと」です。

『自社の最も重要な経営課題を解決する設備を買う。そうでなければ買わない』のが鉄則と言えます。どんなに便利な機能を搭載した最新機械であっても、自社の重要な課題にアプローチしないのであれば、優先順位は後ろの方になります。

自社の強みなどの経営資源や、競合や市場などの外部環境をにらみながらSWOT分析を行って、常に自社の経営課題を明らかにしておきましょう。

製造業であれば、既存製品のQ・C・Dを見直すことが必要です。自社の利益の源泉となっている主力製品について、綿密な見直し行っておきましょう。常に他社製品と比較して、より顧客の満足が得られているかをヒアリングしておき、物足りない点がないかを把握しておくべきところです。

 

新製品を開発する場合は、どのようなQ・C・Dを求められているかを明確にしておきましょう。実際にはやってみなくてはわからない点が多く、目標や計画を立てずにとりあえずやってみるからスタートすることが多いものです。

とはいえ、何度か試行錯誤したら、仮でも良いので目標を立ててPDCAを回すように仕組み化していきましょう。うまく行かない設備投資ほど「まだ最適な条件が見つからない」「市場がまだ広がっていない」などと言い訳しながら、1年経っても目標も計画も定まらないものです。このような「俺は明日から本気出す」という事業にならないように注意しましょう。

こちらにシートを用意しました。

現状のQ・C・Dを書き、それをどこまで変えるかを隣の列に書いてみましょう。具体的に数字を盛り込みながら設定するのがコツです。現状とあるべき姿のギャップが課題となりますので、これを解決できる設備を選んで行くのです。

大事なポイントですが、あるべき姿のQ・C・Dを望む顧客ニーズも書いておきましょう。自社の技術的な自己満足で終わらないように、誰が望んでいるか、誰がそれを使用すると幸せになるかを明確にしておくことがポイントです。


生産工程においては、どんな工程にも前工程と後工程が存在します。ある機械を最新型に入れ替えれば、自動的に工程全体が改善するわけではありません。

例えばこのような状態を考えてみます。

  • 表面処理が15分で1個
  • 加工工程が20分で1個
  • 組立工程が10分で1個

の生産スピードとなっています。

最も遅いのが加工工程ですので、表面処理後には加工待ち在庫が積み上がることになります。また、加工の後の組立工程においては、加工工程のスピードでしか製品が流れてきません。結果的に処理能力はあるけれど稼働率が高くならず、手待ちの時間が発生していることになります。

全体工程能力を決めているのがボトルネックである加工工程です。客先から納期の短縮・コスト削減を要求されていると、このボトルネックを解消する設備投資を考えなくてはなりません。

 

そこで、新型の加工機械のスペックを検討したところ、自社仕様の加工に要する時間が20分から10分と半減できることがわかりました。

従来の2倍のスピードで処理が進むわけですから、加工機械メーカーの営業担当も「これで納期が半分になって、社員さんの残業も減りますよ!社長!」とトークも波に乗るというわけです。

しかし、工程全体で見れば納期が半分になるわけではありません。工程を変更すればボトルネックの工程も変化します。新型の加工機械を導入することによって、ボトルネック工程が加工から表面処理に移動しているのです。加工は従来の2倍の速度で出来るようになりましたが、実際に現場で運用すると稼働率が上がらず、手待ちが発生してしまいます。

この場合、加工機だけではなくて、10分に1個処理できる表面処理装置も一緒に検討するとか、15分に1個加工できるローコストの加工装置を検討するなどの策が考えられるでしょう。

新型の装置を導入することで、どの程度改善するかは担当者が把握しているはずですが、全体工程がどうなるのかを冷静に把握しておきましょう。高いお金を払って最新型を導入したのに、日中の半分は止まっているという悲しい事態にならないようにボトルネックの把握は慎重に!


2つ目の着眼点は「儲かるかどうか?」です。

ものづくり補助金には経常利益や付加価値額に関する目標設定がされていますし、通常の投資案件では毎年のキャッシュフローを見積もるやり方も存在します。細かい計算は自治体の専門家相談などで専門家を利用すれば算出してもらえますが、直感的にざっくりと理解する方法を解説します。細かいことをみるよりも粗利益でみるやり方です。

非常にシンプルで、減価償却費の分だけ粗利を余計に稼げるかどうかで判断します。

例えば3000万円する機械を10年使う場合、毎年の減価償却費は300万円になります。毎年300万円だけ粗利を増やすためには、売上を伸ばすかコストを下げるかしなくてはなりません。新型機械によってそれだけ粗利が増やせるかを考えるのです。

ものづくり補助金の枠で導入する設備の場合、ファイナンスの知識を使って計算しても良いのですが、粗利益が回収できるかどうかの判断でも十分な精度になると思います。

利回りの計算の精度を高めるのに時間を使うよりも、設備を導入してしっかりと当初の「重要な経営課題を解決する」ためのPDCAをしっかり回すことに注力したいところです。


最後に1つ付け加えると、設備投資には株式投資などとは異なる心理的な難しさがあると感じています。

例えば『500万円を投資すると、1年後から5年間毎年の大晦日に110万円ずつ戻ってくる』という投資案件があったとしましょう。運用は相手に任せ切っていますから、あなたにできることは大晦日に予定通り振り込まれるかを確認するだけです。

このような投資の場合、毎年入ってくるはずの110万円が急に105万円とか100万円とか減額されると困りますよね。ましてや「80万円を5回支払います」と元本割れするような結果になった日には「とんでもない投資案件だな!」と怒ることでしょう。

 

設備投資もやっていることは同じはずですね。

500万円払って設備を導入して、毎年110万円を稼ぐつもりで事業を開始するとします。実際初めてみたら、うまく売上が伸びずに稼ぎが80万円で止まってしまうこともあるでしょう。

しかし、あなたの手元には設備という目に見える資産の形で存在しているので、「元本割れした!」「投資したお金を損した!」という気持ちが湧きにくいのです。お金と引き換えに目の前の設備を購入したと考えるようになると、「今年の稼ぎは80万円でも仕方ないかな」という甘えた気持ちが発生してしまうのです!

これは「支払ってしまったお金に対しては、今となっては取り返しようがないので考えない」というサンクコストの考え方の1つではあるのですが、このような気持ちで経営が緩まないように目標設定することが大切です。

減価償却費を引いた営業利益が出るようにしておかないと、借入金も返済できませんし、何と言ってもこの次の設備投資の原資を作ることができません。

企業はゴーイングコンサーンが基本。ぜひ自社の良い技術がさらに良い技術を生んで顧客に貢献するサイクルを回して行きたいところです。

 

技術を磨く設備投資について、コラムでも解説しています!

 

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