自慢したいほど地味な工程です:製造業が検査を○○したがる理由

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日産自動車とSUBARUで完成検査員の資格を持たない社員が検査をして出荷していたことが問題になりました。神戸製鋼所が規格外製品を出荷していた件と合わせて、高品質をうたってきたはずの日本の製造業が思わぬ失点を重ねています。

日産自動車は2017年11月17日に国土交通省に再発防止策を提出しましたが、そもそもなぜこのようなことになってしまったのでしょうか?

十分に検査員を配置していたら、このような問題は起こらなかったでしょうか?

残念ながらそうはなりません。

そこには製造工程における「検査」に特有の要因が潜んでいるのです。

このコラムでは、私が製造業の検査工程に16年携わってきた経験を踏まえて解説していきたいと思います。


そもそも製造業では「顧客が欲しがる良いもの」を安く作って高く売るというのが儲かる前提となります。無駄な部分を削ぎ落とし、浮いた時間で価値を高めることができれば、利益も増えていきます。

 

利益を増やすためには、無駄を省いて工程を最適化する「工程分析」がよく行われます。工程分析では4種類の工程に分類していきます。

加工とは設計に沿って素材を切断したり、部品を組み立てたりする工程です。物理的に変化していく加工の工程を経ることで、製品として完成していきます。

運搬とは、加工に必要な素材や製品を所定の場所まで運んでくることです。生産中の製品に物理的な変化は与えませんが、場所が変わります。ベルトコンベアーなど自動運搬にすると削減できます。

検査とは「寸法通りできているか」「数はあっているか」「品質は問題ないか」など、所定の内容が合っているかを調べる工程です。

停滞とは、加工も検査も運搬もされていない状態のことです。倉庫に積み上げられて保管されていたり、作業開始に備えて製造装置の脇に積み上げられていたりすることです。計画的な停滞を「貯蔵」と呼び、計画に反した停滞を「滞留」と呼びます。

製造業において、付加価値を生み出しているのは「加工」の工程だけです。それ以外の工程にいくら時間を掛けても付加価値が付くことはありません。

そのため、加工以外の検査・運搬・停滞の時間を極力省くことが合理的です。

  • 運搬する経路を短くするようにレイアウトを変更する
  • 手待ちが発生しないように工程能力のバランスをとる
  • 次の製造装置に取り付けるときにジグを使うことで、前工程後の寸法検査を省く

などの打ち手を実行することが多いでしょう。


品質管理の研修でもお話しする機会が多いのですが、品質は本来加工の工程でしっかり作りこむものであり、検査という後工程の負荷を極力減らすように取り組むものです。

QCの基本は源流管理です。検査して不良が見つかったら、真の原因を突き止めて不良が起こらないような加工工程に改良して行きます。理想的には検査なしでも不良が出ないということを目指しているわけです。

最近ではセンサーやカメラのコストも下がり、加工工程でリアルタイムに作業をトレースして、不備があるとその場で作業員にフィードバックが来るような組み立てシステムも登場しています。

検査でチェックすべき点を加工中に機械でチェックさせたり、検査項目にあるような不良が起こらないように工程そのものを改善したり・・・

あらゆる手段を駆使して検査項目を減らしても大丈夫なように工程を磨き上げてきました。検査工程を減らす取り組みこそが、低コストで品質の良い製品を生み出す源泉となってきたとも言えるのです。

常に製造業は検査を省略したがるのです。


企業が合理的に行動している以上、検査項目は工程能力や導入されているテクノロジーに応じて変わって行くことが自然です。

しかし、今回問題となった自動車の完成検査は、法律で定められた検査項目であり、企業独自の判断で撤廃・改変してはいけない内容でした。法定検査でなければならない理由を知らない人からすれば「なぜこの時代にこんな検査をやっているのだろう?」と疑問を持った内容だったかもしれません。

本稿でコンプライアンスを軽視するわけではありません。ルールが現実や時代にそぐわないのであれば、こっそり抜け道を行くのではなくて、正々堂々とルールを変更する努力をすることが先決だと考えます。

その一方で、日産自動車やSUBARUの報告書を読んでも「独自検査ではなく、法定検査だからこそ自動車の品質が改善される」と言う内容を読み取ることはできませんでした。検査に当たった職員の力量についても詳細な言及はありません。ルール違反をした企業が「完成検査の仕組みがおかしいのではないか?」と声を上げることは厳しいところです。しかし、今回問題になった検査項目・検査手順が、品質を維持する上で本当に必要かどうかの議論が欠かせません。

法律や認証規格で定まっていることであれば、経済的なインセンティブはどうあれ、ルールを遵守する必要があります。製造業は検査項目を減らして大丈夫なように工程を改善していく習慣を持っています。削ってはいけない項目については根拠とともに明記する習慣をつけておきたいところです。

検査の品質は問題にせず、検査手順を守らなかった点にのみ議論が集中するのは建設的ではないでしょう。

労働人口が減少していく中で、新しいテクノロジーが出現している現在。検査のあり方も最適化していく必要があるのです。

 

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