神戸製鋼所のデータ改ざん問題と品質問題 〜過剰な出荷前検査に乗り出す前にやるべきこと〜

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神戸製鋼所がアルミ・銅製品に加えて、主力の鉄鋼製品でもデータ改ざんが発覚して問題となっています。納品先のメーカーも製品の特性に影響がないか調査に追われており、万が一安全を確保できない製品が見つかれば大規模な回収騒ぎにも発展するでしょう。

出荷前検査を行い、基準を満たしていない製品を不合格として出荷しないことで、出荷製品の品質を担保します。今回は基準に満たない製品を「合格」と偽って出荷していたのですから「なんとけしからん!品質を軽んじた会社だ」と世間から叩かれまくっています。

しかし、今回の問題は「絶対に検査でデータ改ざんが起こらないように、ガバナンスを徹底すべし」でおさまるでしょうか?

神戸製鋼所の立場では口に出せない、大事なポイントがあるのです。

本稿ではそのポイントを解説して行きます。


さて、ものづくりにおいては、入力(手間・コスト)をつぎ込むことで、出力(品質)が高まっていきます。

初期工程では入力に応じてどんどんと品質が改善していきますが、やがてその上昇の仕方は鈍くなっていきます。ある程度完成した製品に対し、さらに品質を高めようと手を加え続けても、かけた時間の割には少ししか改善しないと言う経験はあるでしょう。


製造を発注した顧客の立場で考えると、機能・安全性を満たすために絶対に達成して欲しい品質基準があります。これを下回ってしまうと、製品が機能しなかったり、破損して消費者に怪我をさせてしまったりするため、決してこの基準より低い品質の製品を受け入れるわけにはいきません。

受け入れ側では、品質がちょっとでも下回ると事故につながると言うギリギリのレベルは恐ろしいものです。そこで、最低限達成しなくてはならない基準に安全マージンを上乗せして「受入基準」を設定します。

メーカーは、客先に受け入れられるような品質で生産することが求められます。


メーカー側も、客先の受入基準に対応して、生産基準を設定します。

こちらも、ジャスト受入基準で設定するとちょっと機械の調子が悪くなるだけで不合格品が大量に出来てしまうので、安全マージンをとって高めの位置に生産基準を持ってきます。

メーカーは安全マージンととった生産基準で生産を行います。


全品狙い通りに生産できれば不合格品ゼロなのですが、実際に生産すると品質にはばらつきが生じます。報道によると、神戸製鋼所の事件では出荷量の4%程度が不合格の水準になっていたようです。

不合格品をなくすためには、手間暇をかけまくって品質を無理やり引き上げると言う手もあります。

しかし、品質の改善度合いがどんどん鈍くなっていく中でこれを実行すると、膨大なコスト高に苦しめられます。


今回、神戸製鋼所の担当者は「不合格にしてしまうと、客先からの注文に対して納期に間に合わなくなり、客先&上司から怒られてしまう」と言う目先の問題と、「客先でも安全マージンを取っているだろうから、検査の数値が多少足りなくても問題あるまい」と考え、データ改ざんに至ったものと推測されます。

「神戸製鋼所のアルミ部材を使うとすぐに壊れる」と言った不具合報告がなかったのであれば、不合格品はおおよそ安全マージンの中に収まっていて、致命的な事故は回避できているのかもしれません。この辺りは今後の調査が待たれます。


さて、ここで考えてみたいのは「基準の妥当性」です。

「そんなに厳しい安全マージンが本当に必要ですか?」と言う観点です。この時期の神戸製鋼所の立場では口に出せないでしょう。

このマージンは日常的であり、過剰に載せていきがちです。

社長が「資料を10部用意してくれ」と部長に伝えたとします。

部長は「自分のところで準備ミスがあると困るから、3部余計に用意してもらおう」と課長に伝えます。

課長も同じように考えて余計に用意してもらうように係長に伝え、係長も同じように考えて・・・と伝言ゲームが続いた結果、社長の意に反して50部も用意されて届く、なんて話もあります。

自分のところで問題を起こされたくない、問題が起こっても対処できるようにしたいと思えば、自分の担当のところで安全マージンを積んで次の担当に仕事を流していくものです。安全マージンはもともと増え続けるようにできています。


また、検査データという数字がありますから、「メーカーが定めた基準」と聞くと、非常に科学的に設定された厳密なものであるというイメージがあります。しかし、実際には過去のデータに裏打ちされているものが多いとはいえ、多くの基準は科学的というよりも経験的に設定されています。

基準が「80以上であること」と定められている時、「なぜ78を不合格にしなくてはならないのか?」「79.5を80とみなしてはなぜいけないのか?」という「なぜ?」という疑問に対しては科学的な答えがありません。

これは、科学的に方程式を解いて80という基準が導かれたわけではなくて、「80以上だった製品でトラブルになった経験がない」という経験に基づいているからです。「ならぬものはならぬのです」としか言いようがないのです。


工程を改善してばらつきを抑え、不合格品を減らす生産性改善の努力は今後も必要です。

メーカー側の努力だけではなくて、過去に客先において「基準を満たさない製品で起こったトラブルはどんなものか」「そもそも、どのような用途で用いられるか」と言った情報を共有しておくべきです。

顧客が取っている安全マージンに対して「コストに見合う妥当な水準か?」「マージンを過剰に取っていないか?」と検証して、適切な基準を探る努力が必要です。顧客の受入基準を死守することだけを考えていると、過剰品質の部品や素材が溢れるようになり、作っても作っても儲からないことになってしまいます。

 

データ改ざんという問題は品質管理の根幹を揺るがす事件であり、この行為が認められることはありません。

しかし、なぜにその受入基準が必要なのかを冷静に見極めることは、データ改ざんの問題とは別です。

過去の経験から出てくる基準は、長い時間を経て「おまじない」になってしまうものです。一度、御社の生産工程でも条件を見直してみてはいかがでしょうか?どうなるとダメになるかを実験しておくと、本当に守るべき基準も見えてくるはずです。

 

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