宇宙戦艦ヤマトに見る戦略的意思決定

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「PDCAがちゃんと回ってないじゃないか!」

そんな指摘を受けたことはないでしょうか?

PDCAとはマネジメントシステムの基本で、社会人の新人研修では真っ先に教えられる基本とも言えます。

  • Plan:目標・計画を立てる
  • Do:実行する
  • Check:振り返って実績と計画の差分を見る
  • Action:実行方法を改善する

具体的な目標と計画を立てて、実行したら必ずチェックする。

うまく行っているときは何が良かったかを振り返り、うまく行ってない時は何が悪かったのかを振り返って、テコ入れ策を考えて実行します。このCheckの工程は目標と現実の乖離を見極めて、どうやったら目標を達成するかの策を考えて実行に移すステップです。

とはいえ、現実的には「今回は運が悪かった」「集計期間が悪くてたまたま未達だっただけ」「今までこのやり方だったから、問題ないはず」と思いながら(信じながら)同じ計画を実行し続けてしまうことが多いわけです。

製品を販売するときでも、最初のロットをリリースしたら顧客の反応をしっかり把握することが欠かせません。

特に販売直後のロットはバグや初期不良が出るものですし、「実際に現場で動かしたら使いにくかった」と苦情を言われることもあるでしょう。そのような顧客からのフィードバックを受けたら、短期間で製品を改善していく必要があります。まさにPDCAサイクルを回しているわけです。

「顧客の声を聞いて改善するんだから簡単じゃないか」

確かにそう思われるかもしれません。しかし、実は厳しい意思決定を迫られてしまうケースもあるのです。

今回はバンダイ模型が行った、宇宙戦艦ヤマトのプラモデルに関わる意思決定の事例をご紹介しましょう。


余談ですが、私が生まれ育った大分県では、夏休みに入ると平日の朝にアニメ劇場として『宇宙戦艦ヤマト』が再放送されていました。

出所
https://middle-edge.jp/articles/UYiab

しかも毎年毎年、変わらずに初代『宇宙戦艦ヤマト』を再放送するという徹底ぶり!

私の小学生の夏休みの思い出は、朝のラジオ体操と「地球滅亡まであと何日」というヤマトで彩られていました。

さらに余談ですが、民放が少ない大分では「笑っていいとも!」は夕方に録画された分が放送されていて、幼い頃は「お昼休みは ウキウキWatching〜」と夕方に歌っている理由がわかりませんでした・・・


本題に戻ります。

宇宙戦艦ヤマトは最初の放送の時は視聴率で大苦戦しました。

 

何と言っても、物凄いパワーを持ったアニメが裏番組だったのです。

 

その名も・・・

 

アルプスの少女ハイジ!

出所:
http://www.heidi.ne.jp/index.html

 

ヤマト最大の敵は、ガミラス帝国でもデスラー総統でもなく・・・

出所:
https://middle-edge.jp/articles/UYiab

 

ハイジだったのです!

出所:
http://www.heidi.ne.jp/index.html

 

クララが立った!と言っている裏で、

出所:
http://www.heidi.ne.jp/index.html

 

ヤマトは沈んでいったのです・・・

出所:
https://middle-edge.jp/articles/UYiab

テレビ放送がこの調子なので、バンダイ模型が発売したプラモデルも注目を集めることなく市場から撤退していきました。


本放送の際の視聴率は残念な結果で終わりました。

しかし、その後再放送でジワジワと人気を獲得した宇宙戦艦ヤマトは、テレビ放送終了から2年後の1977年に劇場版が公開され、社会現象となるくらいの大ヒットとなりました!

「このヒットに乗らなくては!」

この時、バンダイ模型は非常に追い込まれていました。

実はこの時期、ライバル企業はスーパーカーブームに乗じてランボルギーニ・カウンタックやフェラーリなどのプラモデルが大ヒットして売上をグングンと伸ばしていました。しかし、参入するタイミングを逸したバンダイ模型の売り上げは下がる一方でした。1年で売上が半分に落ちて存続の危機とも言える状態に追い込まれていたのです。

社会現象となった後に再販してみると、テレビ放映時には散々だったプラモデルも1ヶ月で全て売り切れて、追加生産が必要な事態となりました。

プラモデルを買った子どもたちからは、このようなフィードバックがありました。

 

ちなみにヤマト第三艦橋とはこちら

不時着や被弾の度に破壊され、次週の放送の時にはしれっと修復されていることから「不死身の第三艦橋」「トカゲの尻尾」などというジョークも生まれました。本来は予備の戦闘司令室なのですが、敵からの攻撃にここまで無防備な指令室も珍しいものです。


初期型のプラモデルは過去の軍艦のプラモデルを参考とし、実際に存在した戦艦大和の形状を参考にしながら、宇宙戦艦ヤマトを再現したフォルムとなっていました。

現実味を考えれば設定された寸法を再現しているので、これが“正しい”プラモデルとも言えるでしょう。

しかし、子どもたちはそのようには受け止めませんでした。

テレビや劇場で見るヤマトは、波動砲を備えた艦首がもっと大きくて立派なのです。

それに対してプラモデルのヤマトはずっと貧相に見えました

「僕たちの宇宙戦艦ヤマトはもっと立派な形をしている」という声が大きくなっていったのです。そこで新しいデザイン案を考えました。

それはアニメのシーンを再現するように、軍艦としてのバランスを無視して艦首を大きく表現するというものでした。

 

この新しいデザイン案に対して、古くからプラモデル業界にいるバイヤーは難色を示しました。

「こんなものはサツマイモじゃないか!パーツの数も少なくて貧相だ」と。

 

この時、バンダイ模型はチャンスと同時に窮地に立たされていました。

ブームとなっている宇宙戦艦ヤマトはシリーズ化の様相を見せており、このヒット状態が長期化すればプラモデルの売上につながることが予想されました。

しかし、会社の状況は予断を許さない状態であり、回復させるには「場外ホームラン級のヒット商品」を生み出さなければならなかったのです。

経営陣は新造形・新規金型による宇宙戦艦ヤマトの商品化を決断しました。

まさに「ヤマトが沈めばバンダイ模型が沈む」という一蓮托生の状態だったのです。


初期型の商品に対するフィードバックは真っ二つに分かれました。

子どもたちからは艦首を立派にした新型が支持されています。

その一方で、従来からプラモ業界を引っ張ってきたバイヤーからは新型は反対されています。

 

「そんなもん、顧客の声を聞くことが大切なのだから、子どもの声を重視するに決まっている」

そんな風に感じるかもしれません。

 

しかし、バイヤーたちはスーパーカーブームの中で大ヒットを打ち出していた実績があります。

バンダイ模型が子どもたち向けに作ったボルテスVなどのプラモデルを簡単に蹴散らし、桁違いの数のプラモデルを出荷して市場を席巻していたのです。

 

「ヤマトが沈めばバンダイ模型が沈む」という会社の状況下で、大ブームを打ち出したヒットメーカーの声をスルーして、子どもの声に賭けるというのは、とんでもなく難しい意思決定だったのです。


結果、10万個の事前受注分が発売1週間で店頭から消えるというまさに場外ホームラン級のヒット商品となり、すぐに追加生産となりました。

子どもたちの声を反映させる意思決定は大当たりとなりました。

このように明確なコンセプトを打ち出せば受け入れられることがわかり、これがその後のガンプラ開発へと繋がって行きます。

 

PDCAのチェックで外部ステークホルダーの声を聞いた時、どの方向に改善するかが簡単に決まるわけではありません。

顧客の声は大切ではありますが、本当に色んな声が寄せられますので、なんでもかんでも取り入れるわけにも行きません。

何を取り入れて改善するかというPDCAの方向性は、外部環境や自社の強みなどを見定めた上で、意思決定しなくてはならないのです。

 

参考文献:ガンプラ開発戦記(猪俣謙次・加藤智:アスキー新書)スライド中のプラモデル写真は本書の53ページから引用。

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