データ偽装が発生する方程式

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神戸製鋼所・日産自動車など品質管理に関わるデータ偽装が連鎖的に発覚し、日本の製造業に激震が走っている。

各社の報告書を読んで感じた共通点がある。

それは、試験で合格基準・納品基準を満たしていない製品を、正規の手続きを踏むことなく合格として納品を行っていたことが問題となっている点である。

メディアでは「利益至上主義」などと言われているものの、組織的に原価を低減して利益率を上げる目的で検査基準を引き下げたり、不合格品を合格と偽っているわけではない。

「期日までに所定の量を納品しないと顧客に迷惑をかける」という側面だけを見た、短期的な顧客満足主義のようにも見える。


「発覚すれば大きな不祥事になる」「職業倫理的には問題がある」と分かっていながら、なぜこのようなデータ偽装が相次いだのだろうか?

そのメカニズムについて簡単な数式を元に解説していこう。

まず、意思決定に関連するパラメータを定義する。

顧客から発注された製品が仕様を満たすことができなかった時の利得を–Aとする。損失になることは明らかであるので、マイナスの符号をつけている(A>0)。これには、再度作り直すことになるコストや、納期遅延によるペナルティが含まれる。

データ偽装を行った時に、何らかの事情で偽装が発覚する確率をpとする。

データ偽装を行って期日通りに納品できた時、企業が得る利得をBとする。これは通常取引の中の利益に該当する。

データ偽装を行ったことが発覚したとき、それによって被る利得を−Cとする。こちらも損失になることは明らかなので、マイナスの符号をつけている(C>0)。

これには、データ偽装の真相解明・取引先調査・再発防止策の検討・ガバナンスの見直し・メディアに対する対応などのコストが含まれる。

作った製品が基準を満たしていない状態で、顧客との約束期日を迎えた時の担当者の意思決定構造はとてもシンプルである。

顧客に正直に伝えてやり直しをするか、データを偽装して良品であったかのように納品することの2択である。

前者を選択すると上司や顧客から叱られ、損失が発生することが確定する。内容によっては現場担当者・責任者の昇進や給与にも影響するかもしれない。

後者を選択するとデータ偽装が見破られるかどうかの確率の判定が発生する。誰からも指摘されなければ無事に納品できるが、指摘されて発覚するとスキャンダルに発展する。

データ偽装をした時に期待できる利得は、データ偽装がバレる確率pを用いて計算することができる。

すなわち、(1-p)×B+p×(−C)=B−(B+C)×p である。

一方、正直に伝えた場合は利得−Aと確定している。

そこで「データを偽装した方が利得が大きくなる条件」は

B−(B+C)×p>−A

p<(B+A)/(B+C)

と導かれる。

データ偽装のバレる確率が、ある値よりも小さい場合はデータを偽装した方が利得が大きくなるのである。

 

計算例を出してみたが、データ偽装が発覚したときの損失が、やり直しによる損失の1000倍の規模になる場合においても、バレる確率が0.1%以下に収まるのであれば、偽装した方がお得ということになる。

ここでは人間の認知による問題が含まれている。


1:損失額が他人事

例えば個人に100万円の追加負担が発生するかもしれないという状況であれば、リアリティを感じて真剣に取り組むだろう。

しかし、個人のレベルを遥かに超えた額の損失が発生する場合、リアリティを感じることができずに他人事と捉えてしまう。企業の中では「社長や上司が謝罪会見とかして対応するだろう」と考えてしまうこともある。

また、偽装が発覚した時の損失額を合理的に見積もることは至難の技と言える。

 

2:発覚する確率が低い

組織的に本気で口裏を合わせて取り組んだ場合、組織外からの監査で見抜くことができる確率は極めて低いと思われる。特に業務ルールの中に組み込まれ、情報システム上でも通常の業務ルーチンにまで落とし込まれていれば、事情を知った者の内部告発でもない限り手がかりを得ることはできないだろう。

そもそも「99.9%大丈夫です!」と言われれば、全く問題なく進行していると考えるのが一般的だろう。人間は5%の確率で起こる事象であれば「そんな事故も起こりうるな」と考えることができる。一方で0.1%の確率で発生することには具体的なイメージを抱くことができず「そんなの杞憂だ」と返すのが普通になる。

 

3:プロスペクト理論

次の例を考えてみよう。

 

<パターン1>

  1. 確実に5万円貰える
  2. サイコロを振って偶数が出ると10万円貰えるが、奇数が出るとゼロ

共に貰える期待値は5万円であるが、多くの人は1の確実に貰える方を選んだだろう。50%の確率で貰える金額がゼロになるくらいなら、確実に貰っておきたいと考えるものだ。これをリスク回避型の思考と呼ぶ。

 

<パターン2>

  1. 確実に5万円支払う
  2. サイコロを振って偶数が出ると10万円支払うが、奇数が出るとゼロ

今後はパターン1とは逆である。金額的には期待値5万円は同じだが、支払う側に回っている。

この場合の意思決定はどうなるだろう?ここでも冒険を避けて5万円を支払って損失を確実に抑え込むだろうか?

 

実は、パターン2では損失ゼロに賭けて2を選ぶ人が多いのである。確実に損をするよりも、冒険に出て損失を避けようとする傾向が見られるのである。

 

これらを合わせて考えてみると、

  • 損失額Cの見積もりが不明瞭で、過小評価される。
  • 確率pが個人では認知できないくらい低い。

ことから、常に不等式が成り立っていると考えられる。

つまり偽装した方が合理的と判断しやすくなっているのだ。

 

また、目の前で確実に起こる損失−Aを嫌がり、確率(1−p)の冒険に出て損失を回避することを選ぶ。

バレる確率pは極めて低い値であるため、Cを過小評価していることと合わせて考えれば、データ偽装をする方が損失が低く合理的な判断となる。

 

経営者は目の前の利益だけでなく、長期的な利益を考えていかなくてはならない。直近のやり直しや納期遅延は確かに手痛い損失ではあるが、これを全く許容しない風土にすると現場では誤魔化しが蔓延してしまう。直近の痛みを受け入れて、それを乗り越える勇気が試されていると言えよう。それぐらい、人はデータを偽装して誤魔化してしまう誘惑に駆られる傾向が強いのである。

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