モビルスーツのコックピットに見るプラットフォームの重要性とは?

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前回のコラム「マ・クベ少佐に学べ!コストと納期を半減させた生産性向上計画:ゲルググへの軌跡」では、ジオン公国のザク・グフ・ドムなどのモビルスーツがマ・クベによって部品と操作系が統一されて生産性が向上したことを解説しました。

部品が統一されたことで現場でのメンテナンス効率が上がりますし、操作系が統一されたことでパイロットの追加訓練時間を短縮することができます。

しかし、いくら部品と操作系を統一したとしても、敵に勝利するためには新機能・新型武器・新型モビルスーツの開発ニーズは高いでしょう。本格的な量産が始まって10年に満たない産業ですから、技術開発スピードも凄まじいものがあります。いかに標準化を図ったとしても、潜在的に構造も操作も複雑・個別最適に進む宿命を負った製品と言えるでしょう。


モビルスーツは2足歩行の巨大人型ロボットですから、自動車や飛行機と比べて駆動部分が段違いに多くなっています。宇宙でも地上でも運用され、自機に直接搭載されている武装だけでなく、両手に持った武器をも自由に使用できるという非常に複雑な機構で出来ています。

自動車の運転と比べて、遥かに複雑な操作系になっていると思いますよね?

しかも操縦だけではなくて、ビームライフルで攻撃して敵を撃破しなくてはならないのです。とても人が操縦できるようなものではないと思われるでしょう。

しかし、モビルスーツの操縦系は非常にシンプルに設計されています。なんと両腕のレバーと両足のフットペダルだけでモビルスーツを操縦できるようになっているのです!

当然、これはハードウェアの制御だけでなく、ソフトウェアのサポートを受けてこそ実現できるものです。


ジオニック社はAMC(Active Mission Control)と呼ばれるシステムを実装しました。これは機体の一連の動きをあらかじめプログラムで設定しておくことで、細かい操縦なしに機体の移動を可能とするシステムです。宇宙空間であっても右旋回のレバー操作をするだけで、モビルスーツは姿勢を制御したまま右に回ることができるのです。

反面、動作がコンピュータで計算・設定された軌道に偏りがちになるため、相手からも予想されやすいというデメリットもありました。また、想定外の事態に変な駆動をしてしまうこともありますが、こちらはデータのアップデートによって改良が進んで行ったことでしょう。大戦中期にはAAMC(Advanced Active Mission Control)に改良され、ドム以降のモビルスーツに採用されました。


一方、連邦軍は推論型ナビゲーション・コントロールシステムを導入しました。教育型コンピュータ・システムとも呼ばれ、新しい状況に遭遇するたびに、過去の状況を参考にして新しい最適動作を生み出し、プログラムを変更し続ける機能を持っています。まさにRX-78ガンダムが試作機でありながら第一線で戦闘を重ねていったのは、実践を経た教育型コンピュータのデータを量産機であるジムに引き継ぐためでした。電磁波妨害をするミノフスキー粒子散布下では無線でのデータやり取りは困難で、ホワイトベースに帰還するたびにハード的なデータの抽出が必要だったと考えられます。

これらの操縦系システムを使うことで、例え2本足が4本足などに変わったとしてもパイロットは同じ操作でモビルスーツを操縦することができるのです。このシステムが機能している限り、例えモビルスーツからモビルアーマーへ乗り換えたとしても操縦自体には不自由はなかったでしょう。モビルスーツの駆動スペック向上やバーニアなど推進力の強化が行われたとしても、パイロットの操作系自体は変更が無いように全体が設計されているのです。


一方、モビルスーツは人型をしていて、様々な武器を持ち替えながら戦うことができるという特徴があります。武装が固定されている戦車とは異なり、戦況に応じてマシンガン・ライフル・バズーカ・ビームサーベルなどを自由自在に持ち替えながら出撃することが可能なのです。例え操縦系が楽になったとしても、武装が増えるたびに操作法が変われば、扱いも大変になってしまいます。

実はモビルスーツには操縦系と同じように、汎用性の高い火器管制システムが搭載されているのです。

MG(100分の1)よりも大きいスケールのガンプラの手を見ると、武器を取り付けるスロットが手のひらにつけられています。これは武器をがっちりと持たせてグラグラしないようにするために、プラモデル用に取り付けられているもの、と思われがちなのですが・・・

実際のモビルスーツにも「コネクター・ソケット」という名前がついて搭載されているのです!

モビルスーツの射撃はガンダムやジムなどの接近戦用でも10km、ガンキャノンなど中距離射撃で20km、ガンタンクなど長距離射撃では30km程度の距離になります。この距離を射撃するとなると、手元で指一本分砲身がずれただけでも大きく的を外してしまいます。物理的に銃を持って引き金を引けば銃弾は発射できるかもしれませんが、数km先の目標に命中させられるとはとても思えませんね。

そこでコネクター・ソケットの出番です。これはモビルスーツと武器を接続してデータリンクすることで、コックピットから武器を直接制御する技術です。頭部に搭載されたセンサーデータと腕の駆動系がリンクすることで、パイロットは複雑な操作をする必要なく、センサーで捉えた対象に向けて正確な射撃が可能になるのです。ビームライフルなどはモビルスーツからエネルギーを供給することになりますし、マシンガンの場合は残弾のカウントもコックピットから可能です。

また、ビームサーベルやヒートホークのような近接武器の場合であっても、センサーで捉えた敵と、攻撃する武器を指定さえしていれば、ターゲットに近接して斬りかかって攻撃することが可能となるのです。

ジオン公国では最初はザクマシンガンやドムのジャイアントバズなどでトリガーの大きさやコネクタが未整備でしたが、統合整備計画によって統一されました。ちなみに、連邦軍のモビルスーツでは左手のグリップにセンサー系、右手のグリップに火器制御系が集約されています。

つまり、モビルスーツの操縦はプレイステーションのコントローラーやゲームセンターの筐体などのレベルで可能になるように設計されており、ハードの変更があったとしてもソフトウェアでカバーする仕組みが充実しているのです。


モビルスーツの操縦と火器制御について、1年戦争後以降も長く徹底されていたことは「基本的なヒューマンインターフェースを変更しない」というものでした。宇宙世紀唯一の例外はサイコミュなどニュータイプ・強化人間用の操縦系統でしたが、一般の兵士が扱う操縦方法はほぼ変わりなく続きました。全天周モニタの採用などでコックピット自体は様変わりしましたし、スラスターの出力は時代を経るごとに増大しました。モビルスーツの動きはスピードアップして洗練されましたが、それでもパイロットの操縦方法自体は変わらなかったのです。

人型ロボットが多様な武器を持って戦うという状況を俯瞰し、非常に汎用的なオペレーティングシステムを導入し、その上に個別のハード制御を乗せています。モビルスーツの凄さは熱核反応炉というエネルギー源やAMBACシステムの搭載というハード面だけでなく、このようなソフトウェア面で画期的なシステムを搭載したことによるものなのです。

操縦と火器管制のオペレーティングシステムにおいて、武器・センサーとモビルスーツの間でのデータ入出力インターフェースを部品メーカーに対して公開していたのでしょう。センサーや武器メーカーにはインターフェースに沿った開発と生産を担わせて、常に良い製品を自軍のモビルスーツに採用していったのです。

このプラットフォーム上で動くシステムを使用するとパイロットの生還率が高くなるとなれば、このシステムを採用するモビルスーツが増加します。そうなれば、武器・センサーメーカーも独自仕様を追求するのではなく、公開されたインターフェースに沿った仕様を徹底するようになるのです。特に1年戦争のような国家間の大規模戦争の場合は、規格外を取り入れたバラツキのある戦力よりも、ある程度規格の揃った戦力の方が計算しやすいという背景もあったでしょう。

逆にグリプス戦役のように小規模紛争が主力となるZガンダム以降の戦いであれば、パプテマス・シロッコが開発したメッサーラやパラス・アテネのような規格外だが尖った性能を持つモビルスーツが再び現れるようになりましたが。

モビルスーツは新型機・新型武装の開発が急激に進みながらも、パイロットのインターフェースを早々に標準化するように制御したことが、ソフトウェア面から見たモビルスーツ開発の凄みですね。

参考文献:機動戦士ガンダム公式百科事典(皆川ゆか編著:講談社)

 

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