ありのままでIT・設備を導入すると失敗する理由

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2017年12月8日、政府は「生産性革命」「人づくり革命」を2本柱とする新たな経済政策を決定しました。

中小企業が設備投資を増やして賃上げを実現すべく、ものづくり補助金等の予算措置の拡充が盛り込まれています。公募開始時期は未定(2017年12月11日現在)ですが、おそらく年明けすぐに何らかの発表があるでしょう。

申請に備えて、機械設備やITツールの導入など投資の検討を進めておきたいところです。

 

一方で、2017年11月26日の日本経済新聞の社説では

  • 中小企業や農業者への補助金のバラマキで生産性は上がらない。
  • 中小企業の設備投資を支援する「ものづくり補助金」制度があるが、補助金をもらっても、企業は自己負担した分の費用さえほとんど回収できずにいる。

との内容が厳しく論じられました。

 

ものづくり補助金を活用することで投資額の3分の2が補助されます。つまり、3分の1に減じた投資金額も回収できていないことになります。このリターンでは、税金を投入している以上は問題視されてしまいます。この補助金の採択率は約40%で、申請したからと言ってそう易々とは採択されない、狭き門と言えます。厳しいチェックがあるにもかかわらず、なぜ導入後に回収が難しいことになってしまうのでしょうか?

 

「今までの仕事の仕方を変えない」と言うこだわり・信念が、新しい技術を取り込む際に悪い方向に作用していたのです。

本コラムではこの問題が起こるメカニズムと対応策を解説して行きます。


少し本題とは逸れたエピソードから、お話に入って行きます。

2013年にディズニー映画「アナと雪の女王」が大ヒットしました。観客が映画館で実際に歌い、なおかつリピートすると言う脅威の消費者行動が話題となりましたね。日本での興行収入は200億円を超え、累計観客動員が1600万人超となるくらい日本中がアナ雪一色で、至る所で「レット・イット・ゴー 〜ありのままで〜」が流れ、いろんな人が口ずさんでいました。

(余談ですが、私はブームが落ち着いてから移動中の飛行機の中で鑑賞しました。「アナ雪見たことあるよ」と友人に告げたら「ガンダム以外も見るんだ!意外!」と大変驚かれましたが)

 

このアナ雪が流行っている時、こんな婚活アドバイスがありました。

「相手のためにオシャレしたり、自分からデートに誘ったりするのは嫌。飾らない、ありのままの自分を好きになってくれる人と結婚したい」と主張する頑固な男性に対して

「ありのままのお前を好きになるのはお母さんだけだ!相手に好かれたいなら、相手の好みに合わせて、自分の魅力を引き出す努力をしろ!」とバッサリ切り捨てていたのが印象的でした。

ありのままの自分を受け入れると言うのは、ストレスの多い環境下では自己肯定感を高める働きがあり、大切な考え方と言えます。アナ雪が大人の女性に受けたのは、このあたりの要因があるのかなと推測します。

一方で、ありのままから何も足さない・何も加えない状態を頑なに維持しようとすると、せっかくの良さが伝わらないと言うことにもなりかねません。自分の強みを活かすことも大切ですが、周囲の環境に適応させて自分を変えていくこともまた大切なのです。


日本企業がIT投資をして失敗する時、バッサリ切り捨てられた頑固男性のように「ありのまま(=従来のやり方)を変えることなく設備投資をする」と言うスタンスが見られるのです。

 

ようやく本道に戻ってきました。

 

実は、新しい機械設備やITツールを導入するとき、最も考えなくてはならないのは「新しい技術を導入して、どのように全体の業務システムを組み直すか」と言う点なのです。

この点を深く考えず「今やっているこの業務の、この部分に導入しよう」と個別の工程で導入していると、良くはなったけど思ったほどでもないと言う効果に終わってしまいます。

 

例えば、2口のコンロで料理を作る工程を考えます。

今までは料理の順番や使い方、フライパンや鍋の種類を「コンロは2口である」と言うことを前提として最適化していました。煮込む料理があると長時間コンロを占有するから、もう1つのコンロで手早く付け合わせを作って・・・など、工程の段取りをセッティングする必要がありますね。

そこに、火力の性能が改善されて調理時間が40%短くなる上に、コンロの数も3口になった新製品が発売され、あなたのところでも導入することになったとします。

設備会社の営業担当は「火力もアップしていますので、3口のコンロをフルに使えば調理時間を半分以下にできますよ!」と言った営業トークをするわけです。

では、これを実際に現場に落とし込むとどうなるでしょうか?

 

良く見かけるのは「新型3口コンロを導入したけれど、段取りとレシピは従来のまま」と言う運用です。火力がアップしたことで調理時間は短縮されますが、使うコンロは2個のまま。3口コンロにすると従来から慣れ親しんだレシピや段取りが大幅に変わるので、変更作業がとても面倒なのです。

3口コンロを前提とすれば、今までは手がけてこなかった手間のかかる料理ができるようになるかもしれませんし、下ごしらえがやりやすくなるかもしれません。いろんなメリットが潜んでいるはず。

にも関わらず「従来の業務フローを前提として、使えるところにだけ使う」と言うつまみ食い的な導入をした結果、悪くはないけど期待したほどでもないと言う成果に止まってしまうのです。しまいには「3口はオーバースペックなんだよね。安い2口バージョンを出してよ」とメーカーに要求することも珍しくありません。

 

新しい機械・ITツールを導入するときは、使えるところだけ機械化・自動化すると言う発想ではなく、それらが導入されることを前提として、業務全体を見直して最適化する努力が欠かせないのです。


この点は、中小企業白書2016でも指摘されています。

中小企業白書2016第2-2-1図より、IT投資を行った企業は、行なっていない企業と比較して売上高経常利益率が良い傾向が見られます。

 

興味深いのは中小企業白書2016第2-2-14図「高収益、低収益別に見た IT 投資の効果を得るために有意であった取組の実施状況」です。

IT投資をして高収益になった企業が業務プロセス・社内ルールを見直していることに対し、低収益企業ではその取り組みの割合が少なくなっています。

きちんと業務システム全体を見直した上で、設備をどのように投入すれば全体の生産性が改善するかをしっかり吟味してから導入する必要があったのです。


2018年年明け早々から、ものづくり補助金などの申請受付が始まると予想されます。

今の工程の古い機械を捨てて新しい機械を投入すると言う発想で終わることなく「新しい機械をフルに使って成果を出すためには、どのような工程であるべきか?」と全体を改めてデザインすることが求められます。

事業計画を考えるとき、一人で考えているとありのままを残す方法にたどり着いてしまいがち。

事業計画を見るとき、極力客観的な気持ちで振り返ってみましょう。

 

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